トビはいっぺん落ちたら、それこそそれでアウトだもん。


「仕事は、とび職人。
 最後の仕事が、スカイツリー。
 第二の上側の展望台の、あそこ。
 こわいよ?
 大体30〜40m上で
 何にも無しであの外へ出て、
 足場吊っていくから。
 だけど、面白いよ?
 落ちたら終わりだもん。
 船乗りは『いたこ一枚、下は地獄』っていうけど。
 トビはいっぺん落ちたら、
 それこそそれでアウトだもん。」

ー続けていこうと思う理由は?

「やっぱり、迫力があるじゃん。
 下でちまちました仕事なんて
 出来ねぇもん。
 見る世界が違うもん。
 君だって、下におってみな。
 ゴミにもならんくらいの小ささだよ?
 面白いっていうより、
 スリルがあるじゃん。
 あと、誰もやらないっていうプライドもある。

 俺ら安全帯っていうのしてるけど、
 あれはあくまで、気休めだから。
 人間、こーんとつまづいて
 外に落ちれば、
 3倍の荷重がかかっちゃう。
 俺が今68kgだから、
 200kg以上のものが落ちる。
 そんなんが瞬時にぐっとなったら、
 プツっと切れちゃうでしょ。
 だから、面白いのよ。
 だって落ちたら
 痛いもクソもないでしょ。
 人間なんてな、
 落ちとる寸前に窒息して死んでるし。

 俺、岡山地元だけど
 瀬戸大橋やったときでもそう。
 一気に10人が60m下に落ちた。
 60mっていうたら、コンクリートと一緒。
 で、生き残ったのはそこの親方だけ。
 そんとき親方は、
 一か八かの賭けをしたらしいんだ。
 自分の目測で、海面10メートル来た時
 安全帯外しとって、
 落ちた時の、波の巻き方な。
 それを見て、反転飛びをして、助かった。」


(5/24/2014 中目黒 Nakameguro)

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